一見して分かるのは、油性ボールペンは、耐光性の低いものが多いということです。これは、多くの油性ボールペンは油性染料ボールペンであるため、光によって染料が分解されてしまうためと思われます。
ただし、最近は油性であっても顔料を配合したボールペンが増えてきています。特に低粘度油性では、顔料を配合した製品が多く、耐候性が高いものが多いようです。
以下、具体的製品について述べます。
BICやCARAN d'ACHEといった海外メーカーのボールペンは、昔ながらの油性染料ボールペンがほとんどで、耐光性が低くなっています。
ただし、古いParkerと古いMontblancについては、耐光性が高いようです。これは、古いリフィルでは顔料を配合していたためか、溶媒が揮発してインクが濃縮されたため、描線中の染料の量が増え、退色が遅くなったのか、理由は不明です。おそらく後者ではないかと思いますが、いずれにしても、現行品では耐光性は低いようです。
easyFLOW 9000は、海外版低粘度油性といったリフィルですが、純粋な油性染料のようで、耐光性は低いようです。描線が濃いため、耐光性が高いかとも思ったのですが、むしろ耐光性が低い方でした。
OHTOやTombowやPilotといった日本メーカーのボールペンも、昔ながらの油性は、耐光性が低くなっています。このテストでは、低粘度油性を多く選んでいるため、耐光性が高いものが多いようですが、実際には昔ながらの油性がほとんどではないかと思います。
ただし、PilotのA-ink やAcroballは、耐光性が比較的高くなっています。これらは油性染料インクのはずですが、工夫されているのか、耐光性が従来の油性染料ボールペンより高くなっているようです。とはいえ、テスト終了時には相当退色してしまったので、あくまで油性染料インクとしてはという程度にとどまります。
Pentel Rollyは、このテストの中でもっとも耐光性が高かった製品の一つです。元々の色は比較的薄かったのですが、ほぼまったく退色することがありませんでした。ここでは載せていませんが、赤色と青色のRollyの耐光性テストを行った際も、ほぼまったく退色することがありませんでした。赤色については、同時にテストした顔料ゲルのシグノでさえも退色していたことを考えると、驚異的な結果です。耐光性に関しては、最も優れた製品の一つではないかと思います。
uni(三菱鉛筆)のJetstreamは今の低粘度油性ブームの引き金となった製品ですが、顔料配合により、耐光性は高くなっているようです。幾分退色はするものの、十分な耐光性を持っているといえるでしょう。一方PowerTankは、uni(三菱鉛筆)の染料顔料混合インクの走りとなった製品で、これも顔料により高い耐光性をもっているようです。なお、PowerTankは、金属製リフィルであるSJP-7とプラスチック製リフィルであるSP-7とでは、使用しているインクが異なるようで、描線の色が微妙に異なります。SJP-7の方が黒に近いのですが、耐光性もSJP-7の方が高いようで、SP-7の方はわずかに退色しています。
VICUNAは、Pentelが出した低粘度油性です。Jetstreamの対抗馬的製品になりますが、こちらも顔料を配合してあり、耐光性は高くなっています。Jetstream同様、幾分退色はしますが、十分な耐光性を持った製品だと思います。
ZEBRAの低粘度油性であるSurariは、公文書でも使えることを宣伝文句の一つとしています。しかし、退色は従来の油性染料ボールペンと同程度の速度で進みます。もっとも、他と異なり、青色の文字が残ります。これが顔料成分かは分かりませんが、もしかすると、これ以上は退色しないのかも知れません。いずれにしろ、耐光性という点では、あまり期待しないほうが良いと思います。
Fisher Space Penは、チキソトロピー性を利用しているため、厳密には油性ゲルインキボールペンだと思います。ただ、テスト開始時点で、そのことを知らなかったため、油性ボールペンに分類してあります。もっとも、一般には、油性ボールペンとされているため、こちらで語るほうが混乱が少ないかも知れません。
ともあれ、Fisher Space Penは、現行の海外製「油性」ボールペンで(知る限り)唯一、耐光性が高い製品です。染料を配合していることは間違いないのですが、当時の特許(US Patent # 3,285,228)の実施例を見るかぎり、どうも顔料も配合しているらしく、そこが耐光性の高さの理由ではないかと思います。多少は退色するものの、十分な耐光性を持った製品と言えるでしょう。
油性ボールペンとの比較で一見して分かるのは、ゲルインキボールペンは、耐光性が高いものが多いということです。これは、ゲルインキボールペンでは、顔料を使用したボールペンが多いためだと思われます。
以下、具体的製品について述べます。
OHTO G-305、Pentel Energel、Pentel Slicci、Pilot Hi-Tec-C Cavalier、Pilot Dr.Grip Gelは、水性染料ゲルインキボールペンです。Pilot製品は、ごく一部を除いて、油性水性問わず染料が多いように思います。いずれも、経時と共に退色が見られます。ただし、油性染料ボールペンよりは、退色の速度は遅いようです。とくにOHTO G-305では、ごくわずかに退色がみられるだけです。
その他の製品は、水性顔料ゲルです。いずれも、まったくと言っていいほど退色していません。
ただし、ZEBRA SARASA stick JT-0.4については、ごくわずかながら退色が見られました。顔料としてカーボンブラックを使用していると思っていたのですが、退色したことからすると、別の顔料を使っていたりあるいは染料も混ぜてあったりするのかも知れません。SARASA CLIP JF-0.5 とは、よくよく見ると描線の色合いも異なり、その他のテスト結果を考慮しても、インクが異なるように思います。
これもまた、一見して気づくのは、油性ボールペンに比べて、耐光性が高いものが多いことです。もっとも、その理由は、複数あるように思います。
以下、具体的製品について述べます。
まず、Pilot V CORN、Pilot V BALL RT、ZEBRA A-300、Pilot Hi-tecpoint V5については、油性染料ボールペンと同様の、明らかな退色が見られます。これは、水性染料ボールペンであるからと考えられます。
次に、Itoya PaperSkater Synergy、OHTO NCB-300AT、Pilot MULTI BALL、Pilot PERMA BALL、Pilot V CORN C、uni(三菱鉛筆) Vision Elite、Tombow Zoom505は、全くと言っていいほど退色していません。これは、水性顔料ボールペンであるからと考えられます。
問題は、Lamy、Faber-Castell、Rotring、OHTO C-305、Pentel Ball Pentel、uni(三菱鉛筆) UBR-300です。これらは、水性染料ボールペンです。にもかかわらず、退色はほとんど見られません。理由として考えられるのは2つ、a. 使われている染料が耐光性が高いものだったか、b. インクの量が多かったため退色が遅れたかです。
基本的には、海外製ボールペンやBall Pentelなど、退色していない製品がボール径の大きいものに集中していることから、b. の理由によるものではないかと思います。ただし、万年筆でのSailor Jentle Ink Blackの結果を見ても分かるように、染料でも耐光性の高い製品は存在するので、ものによってはa. の理由もあるかも知れません。
たまたま、水性染料、水性顔料、油性染料がそろいました。
Pentel Sign Penは、水性染料インクです。あまり退色していませんが、これは、水性ゲルインキボールペンの項でも述べたように、インクの量が多いからではないかと思います。
Sakura Pigmaは、水性顔料インクです。こちらは、アメリカ自然科学博物館での調査で恒久保存記録用のペンとして最高評価を受けていたり、戸籍簿原本(今は電子化に移行しつつありますが)への記載用のペンとして法務省から認められたことがあったり、保存用として実績のあるペンです。このテストでも、退色はほぼまったくみられません。
ZEBRA Mckeeは、油性染料インクです。これもまたあまり退色していませんが、やはりインクの量が多いからではないかと思います。
万年筆は、基本的に水性染料インクを使うものなので、耐光性はあまり高くありません。ただし、もちろん例外もあります。
以下、具体的製品について述べます。
Montblanc、Pelikan、Pilot、Platinumの黒色インクは、水性染料インクで、いずれも耐光性は高くありません。もっとも、油性染料ボールペンよりは概して高いようです。
Sailor Jentle Ink Blackは、水性染料インクですが、ごく微妙にしか退色していません。染料でありながら、耐光性は非常に高いようです。
Platinum Carbon Black、Sailor 極黒、Sailor 青墨は、水性顔料インクです。いずれも、ほぼまったく退色しておらず、極めて高い耐光性をもつことが分かります。
Platinum Blue Black、Pilot Blue Black (旧インク)は、いわゆる古典ブルーブラックインクです。古典ブルーブラックインクは、よく保存用に適しているなどと言われることが多いのですが、結果を見るかぎり、耐光性は高いとは言えません。酸化反応が進んでないからかと思い、18年前に筆記された紙も持ち出してきましたが、結果としては、耐光性の低さを確認することになってしまいました。
そもそも、ヨーロッパで記録保存用に使われてきたのは、没食子インクと羊皮紙の組み合わせであって、古典ブルーブラックインクと紙の組み合わせで長期保存されてきたわけではありません。古典ブルーブラックが、現在の他のインクと比べて、保存に有利とされるのは、この点の混同による部分があるのではないかと思います。